SuperKEKBが動き始めました

2016年3月25日

2010年6月から運転を停止し、性能のアップグレードのための改造を行っていたKEKB加速器は、電磁石やビームパイプなどの加速器部品の大幅な入れ替えが終わり「SuperKEKB加速器」として試験運転を始めています。

遮蔽体で覆われる前の衝突点付近のSuperKEKB加速器(手前)と、アップグレード作業中のBelle II測定器(奥)。(撮影日:2015年9月6日)

ビームの調整をするコミッショニンググループ。左から加速器研究施設の船越義裕教授、紙谷琢哉教授、大西幸喜准教授

(左)新たに設置された電磁石
(右)改造後のビームパイプ。実験時にはこの内部を超高真空にしビームを通します。ビームの品質を保つため、ビームパイプの両脇に「アンテチェンバー」と呼ばれる部分を設けたり、内部に窒化チタンをコーティングするなど、様々な工夫が施されています。
(©Rey.Hori)

KEKのBファクトリー(KEKB加速器/Belle測定器)は1999年から運転を行い、2001年にボトムクォークなどから構成されるB中間子が変化する様子を観測し、「小林・益川理論」が予測する大きなCP対称性の破れを検証しました。この結果は2008年の両博士のノーベル物理学賞受賞に大きく貢献しました。また、2003年にはチャームクォークを含む4つのクォークが結びついためずらしい粒子を発見するなど、素粒子のいろいろな性質を次々と解明するという成果をあげました。

人類は私たち自身も含め、原子で構成されている「もの」に囲まれ、「もの」を利用して暮らしています。原子の真ん中には重くて硬い芯である「原子核」があり、原子核の周りには電子がいくつか周っています。原子核を構成するのが「陽子」と「中性子」ですが、その陽子と中性子も、素粒子である「アップクォーク」や「ダウンクォーク」が3つ結びついてできていることがわかっています。

「強い力」と物理学者が名づけた力により、クォークは複数が結びついた状態でしか観測されません。通常は2つのクォークが結びついた「中間子」と呼ばれる状態か、もしくは陽子や中性子のように3つのクォークが結びついた状態で観測されます。

身の回りの「もの」をどんどん細かくしていくと、素粒子にたどり着く。

Bファクトリーが観測したのは主にボトムクォークからなるB中間子でした。しかし、「もの」はアップクォーク、ダウンクォークと電子でできていますから、「もの」をいくら見ていてもボトムクォークを見ることはできません。

20世紀に入って、「もの」の構造を探るために加速器という装置が開発されました。加速器のエネルギーをあげていくうちに、「もの」を構成している素粒子以外にも素粒子が存在することに気がつきました。素粒子は今のところはその構造がないとされる粒子のことですが、「もの」を構成している以外の素粒子は、いずれも質量が大きなものです。

一般に、大きな質量を持つ素粒子はより小さな質量を持つ素粒子に変化するという性質を持ちます。そのため、大きな質量の素粒子はできたとしても、すぐにアップクォーク、ダウンクォークや電子といった小さな質量の素粒子に変わってしまうので、長い間人類はボトムクォークなど「もの」を構成している以外の素粒子が存在できることに気がつきませんでした。

アインシュタインが考え出した有名な式「E=mc2」は、左辺のエネルギー(E)と右辺の質量(m)を関係付けるもので、質量をもつ素粒子にエネルギーを変換したり、質量をもつ素粒子をエネルギーに変えることができることを表現したものです。高エネルギー加速器で小さな質量をもつ電子などにエネルギーを与え、大きなエネルギー(E)を持つ状態を空間の一点に作ることにより、右辺の大きな質量(m)の素粒子が作られるのです。

もちろん加速器が勝手に素粒子を作るのではありません。もともと自然にはそのような性質があるのですが、今の宇宙ではボトムクォークを作るエネルギーが空間の一点に集中することがないので見えなかったのです。しかし、そうした大きな質量の素粒子が数多く存在した時期が宇宙にはありました。宇宙は138億年前にはビッグバンと呼ばれる超高温、超高圧の状態にあったと考えられており、その高エネルギー密度状態からボトムクォークが数多く作られていたと考えられます。ビッグバンの後、宇宙は急激に膨張し、エネルギー密度が下がったためボトムクォークが作られる機会がなくなりました。

小林・益川理論は、現在私たちが住んでいるような「もの」の世界になるために、自然にボトムクォークとトップクォークを作り出す能力があることを予測しました。そして実際に、自然は今でもその性質を持っていることが高エネルギー加速器を使った実験で確かめられました。自然の構造を解明するにはボトムクォークをよく知る必要があるということです。ボトムクォークのように「もの」を作っているわけではないが、自然を構成するために必要な素粒子がどのくらいあるのかは全然わかっていません。

ボトムクォークの性質やボトムクォークが変化した素粒子をより詳しく調べるために、KEKはKEKB加速器の大改造をしてきました。そしてSuperKEKB加速器としての運転を開始し、2016年の2月に、周長3キロメートルの円形加速器で、改造後初めて、再び電子と陽電子を周回させることに成功しました。

目標はKEKB加速器のB中間子を作り出す能力をKEKB加速器の40倍以上にすることです。これはKEKB加速器を使い続けていたら40年かかる研究を1年で達成でき、SuperKEKB加速器による3年は従来の120年に相当することを意味します。SuperKEKB加速器が作り出す大量のボトムクォークの反応を解析することで、自然を構成するのに不可欠だが、まだその存在も知られていない素粒子の影響が見えてくる、と物理学者は考えています。

SuperKEKBの全体図。青の丸とピンク色の丸はそれぞれ電子、陽電子の動きを表している。

SuperKEKB加速器が40倍の性能を目指す間、B中間子を測定する測定器も改造しています。Belle 測定器を構成した多くの測定装置は、入れ替えられ、40倍に増えるデータ量を処理し、より精密な観測を行う「Belle II測定器」に生まれ変わります。動き出したSuperKEKB加速器の進捗状況や、Belle II測定器建造の進捗について、今後もハイライト記事によりお伝えしていきます。

SuperKEKBと並行して改造が進められているBelle II測定器(©Rey.Hori)

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