奇妙なヒッグス粒子

2015年12月18日


※この記事は、サラ・チャーリーが執筆したSymmetry Magazineの記事を翻訳し、日本語版用に若干の加筆修正を加えたものです。


ヒッグス粒子は素粒子物理学の標準モデルに登場する他の粒子とはまったく肌合いが異なります。

あなたがスターウォーズの主人公ルーク・スカイウォーカーだとしましょう。十分長い間、緑色をした小さなジェダイマスターを背負いながら、ダゴバのジャングルを歩いて来た後でやっと、「フォース」(理力)を使い、水浸しになった戦闘機「Xウイング」を沼地から引き上げることができるでしょう。しかし、あなたが素粒子の標準モデル中のボソンであるなら、訓練をしないでも、そのまま「力」を発揮することができるでしょう。

ボソンは4つの基本的な「力」を生み出す素粒子です。これらの力は他の方法では扱いにくかった素粒子のスープを、宇宙に充満する美しいモザイク状の星や銀河に押し込んだり、引き入れたりします。基本的な力は陽子を信じられないくらい安定に保ち(強い力がその形を保つ)、コンパスの針を北に向け(電磁気力が針を引きつける)、リンゴを木から落下させ(重力※注が果実を地面に引っ張る)、太陽を輝かせ続けます(弱い力が核融合を起こさせる)。さて、2012年には、ヒッグス粒子がこのボソンの仲間として正式に認められました。

ヒッグス粒子はスピンと呼ばれる量子力学的性質のためにボソンと呼ばれます。スピンは素粒子の固有な角運動量を示し、また標準モデルの他の素粒子とどのように相互作用するかを表します。ボソンは「0、1、2」のような整数のスピンを持ち、一つの場所に何個もの粒子が仲良く存在できる性質を持ちます。一方、フェルミ粒子は「1/2、3/2」などの半整数のスピンを持ち、少し孤独を好むところがあります。つまりフェルミ粒子は一つの場所に1個しか存在することができないのです。

ヒッグス粒子は値が0のスピンを持ち、それがこの粒子をボソンと呼ぶ理由です。「どのボソンも4つの力のうちの一つに関係があり、新しいボソンが発見される時は、新しい力も見つけられると考えるのが普通です」とニューヨーク大学物理学科准教授のカイル・クランマー氏は語ります。科学者は「ヒッグス粒子があれば、ヒッグス力も存在する」と考えるのです。しかし、この力との関係のために、ヒッグス粒子は仲間から厄介者扱されることになっています。そして、これがヒッグス粒子を素粒子物理学の標準モデルに加えた時、しばしば他の仲間とは離れた位置に描かれる理由なのです。

ヒッグス粒子の役割

「ヒッグス粒子がいずれかの素粒子と相互作用すると、その粒子に質量を与えます。また、ヒッグス場の励起が、ヒッグス粒子が現れるということになります。そして、ヒッグス場はその独特な特徴により素粒子に質量を与えており、宇宙に存在するすでによく知られている他の場とは異なっています。ヒッグス場のスイッチが入ると、素粒子の周りのあらゆる環境、すなわち空間自身の性質を変えます。また、他の素粒子とヒッグス場との相互作用はそれぞれの素粒子の持つ固有の性質に基づいて生じます」とハーバード大学の理論物理学者、マット・ストラセラー氏は語っています。ところで、一般的には場が力を発生するには、3つの条件があることが知られています。つまり、(1)力の場はスイッチでオン・オフできなければならない、(2)スピンの値を1以上持ち、角運動量の回転軸があって一定の向きを生じる、(3)引き付けたり、反発したりできなければならない、以上の3つです。

普通、ヒッグス場は最初の2つの条件を満たしません。つまりそれはいつもスチッチが入りっぱなしで、スピンの量がゼロなので一定の向きを持ちません。しかしヒッグスボソンが存在するだけで、場が歪められ、理論的には「力」が生じます。「私たちの理論では、2つの素粒子がヒッグス場を使って互いに引っ張り合うことができると考えます。ヒッグス粒子の存在とヒッグス粒子の他の粒子への崩壊の様子を予想した同じ方程式から、その『力』の存在を予想したのです」とストラセラー氏は続けます。しかし、宇宙に関する私たちの深い理解の中で、その「力」が果たしている役割はなお謎に包まれています。

「私たちは安定な物質の形成にとってヒッグス場が重要なことを知っています。しかし、私たちの考えでは、ヒッグス『力』の方はちょっと違います」とストラセラー氏は続けます。ヒッグス「力」は他の面で重要である可能性があるのです。それは宇宙にどれだけの量の暗黒物質が存在するのかという問題や、物質と反物質間の大きなアンバランスの説明に関与している可能性があります。「今、ヒッグス粒子について一気に書くのには早すぎるのです」と彼は語ります。LHCの今期の運転中には、第1期の運転に比べ約10倍のヒッグス粒子が生成されることが期待されていますが、そうなればヒッグス粒子のこうした面白い性質について、もっと深く調べることが可能になるでしょう。

※注 重力を伝える素粒子はまだ見つかっていません