シリーズBelle II【第5回】
ミュー粒子・中性K中間子(KLM)検出器

2013年2月25日

ミュー粒子は、強い力を感じないレプトンと呼ばれる素粒子の仲間で、電子と同様に−1の電荷を持ち、電磁気力と弱い力を感じますが、電子の約200倍の質量を持つ素粒子です。一方、中性K中間子は内部にストレンジ・クォークを含む中性の中間子で、短時間で変化(崩壊)してしまう短寿命中性K中間子(K0S:ケイ・ゼロ・ショート)と、比較的長時間変化しない長寿命中性K中間子(K0L:ケイ・ゼロ・ロング)が存在します。K0Lは物質との反応を起しにくいために、衝突点に近い測定器では検出ができません。

今回は、
  1.ミュー粒子の検出とミュー粒子に質量の良く似た荷電パイ中間子との識別
  2.K0L粒子の検出
という2つの役割を持つ、Belle II測定器最外部に配置される「ミュー粒子・中性K中間子(KLM)検出器」の建設状況を紹介致します。

Belle IIの内部構造 ©Rey.Hori

Belle IIのKLM検出器開発を担当している住澤一高(かずたか)素粒子原子核研究所助教に話を聞きました。

住澤一高 素粒子原子核研究所 助教― Belle IIのどういった物理研究でミュー粒子の検出が重要になりますか?

「SuperKEKBのビームの衝突反応によって生成されたB中間子が、より軽い粒子に変化していく(崩壊)とき、ミュー粒子が生成される反応を利用して、関係するクォークの種類(フレーバー)の識別や、非常に稀に起きる反応を判別することができます。特にB中間子がチャームクォーク対でできているJ/ψ(ジェイ・プサイ)中間子に崩壊し、さらに引き続いて2つのミュー粒子に崩壊する反応は、今の宇宙において反物質が失われた謎に迫る、「CP対称性の破れ」の研究に欠かすことができない反応として重要です。」

― ミュー粒子を検出する装置を設計するポイントはなんでしょう。

「ミュー粒子を確実に検出し、しかも他の粒子と見間違えないこと。特にミュー粒子と質量の良く似た荷電パイ中間子との識別が重要となってきます。ミュー粒子は物質中では電磁相互作用によりエネルギーを失っていくのに対し、ハドロンである荷電パイ粒子は強い相互作用をするために物質と反応を起こし多くの粒子を生成するという性質の違いを利用します。吸収材と呼ばれる鉄材を検出器と交互に配置することで、荷電パイ中間子は数多くの粒子として検出されますが、ミュー粒子は一本の飛跡として検出されます。実際の解析では、中央飛跡検出器(CDC)で検出した荷電粒子の飛跡を最外部のKLM検出器の領域まで外挿した仮の飛跡とKLM検出器で検出された荷電粒子の飛跡との比較により識別を行います。」

― それでは、K0L粒子の検出は何故重要なのでしょう。

「B中間子がタウ粒子と複数のニュートリノに崩壊する反応はBelle IIが大きな目標とする新物理の探索にとり重要な反応の一つです。しかし、ニュートリノもK0L粒子と同じように物質との反応を起しにくく、ニュートリノとK0L粒子の識別は難しいものです。しかし、KLM検出器によってK0L粒子をなるべく多く検出することにより、すべての検出器を通り抜けていったものはニュートリノ、KLM検出器でやっと検出されたものがK0L粒子というように識別でき、ニュートリノとK0L粒子を勘違いしてしまう割合を減らすことができます。これにより、ニュートリノを含む崩壊反応の精度良い測定をすることが可能となります。さらに、Belle IIの競争相手であるLHCbではK0L粒子の検出は出来ないので、KLM検出器によるK0L粒子の検出はBelle IIの強みとなります。」

― Belle IIにとって重要となるK0L粒子の検出ですが、具体的にどのように行うのでしょうか?

「K0L粒子は中性の粒子なのでそのままでは中央飛跡検出器に飛跡が残りません。そこで、ミュー粒子と荷電パイ中間子との識別に設置された吸収材を使って、K0L粒子にも強い相互作用を起させ、多くの荷電粒子に変化させることで検出を行います。」

― そうしますと、KLM検出器は、吸収材の層と薄い検出器の層とを交互に配置する多重構造になっているということですね。

「ええ、また、Belle IIの最外部に位置するため、広い面積をカバーすることになります。さらに多層構造のため多くの検出器が必要となるので、取扱いが容易で材料が安価な検出器を設置します。また、Belle II実験も10年程度の継続が予定されるため、長期にわたる高い検出効率を維持でき、安定した動作を示すことが要求されます。」

― これまでのBelle測定器のKLM検出器と異なる点はどこでしょう。

「BelleのKLM検出器には高抵抗電極板測定器(RPC:Resistive Plate Counter)が使われていました。荷電粒子が通過するとガラスの高抵抗電極板に蓄えられた電荷の放電を利用し、通過位置の測定を行っていました。ところが、いったん放電した粒子通過点の近くに再び完全に電圧をかけるには2秒ほど時間がかかります。この不感時間は、衝突頻度が40倍にあがり、反応頻度があがるBelle IIにおいて、バックグラウンドとして測定器に入ってくる中性子や荷電粒子の通過頻度を考慮すると、衝突点からのミュー粒子やK0L粒子の測定効率が大変悪くなってしまいます。

そこで、今回のBelle IIのKLM検出器では、両端部(エンドキャプ部)と、円筒部(バレル部)の最内部二層には復帰時間を気にしなくてよい、ストリップ状のシンチレータを使い、光を一端に設置した多重ピクセル光子検出器(MPPC : Multi-Pixel Photon Counter)で読み出すシステムに変えます。この変更により、懸念された非常に多くの荷電粒子の通過に起因する性能の劣化も心配しなくてすみます。」

層状に見えるのが円筒部(バレル部)のKLM。写真はBelle測定器建設時のもの

取りはずされる端部(エンドキャップ部)のKLM。Belle IIではストリップ状のプラスチックシンチレータと光検出器を用いた新しいKLM検出器が使用される。

― 開発の状況を教えてください。

「ロシアの理論・実験物理学研究所(ITEP)はBelle IIのKLM検出器のうち、両端部(エンドキャプ部)に使用するKLM検出器の製作を中心的に担っています。検出器に使用するストリップ状のシンチレータに信号を送るためのファイバーを入れ、一端に多重ピクセル光子検出器(MPPC)を付けます。その工程が完了すると、さらにシンチレータを横に15本繋げて一塊にします。ここまでをロシアで行ったあと、KEKへ輸送されます。両端部(エンドキャップ部)のKLM検出器は最終的に1枚あたりが扇形の形状になりますが、15本ずつで一塊にされたシンチレータを扇形に組み合わせていく作業は、ロシアからも研究者が来てKEKで共に行います。現在は56枚分が完成し28枚分が3月から4月にかけて届く予定です。そして、4月から5月にかけて一部をBelle II測定器にはめ込んでテストを行います。そして、一方の端部の56枚全てを入れこむのが今年の10月頃。その後、もう一方の端部にとりかかり、来年の3月には全て入れこむ予定です。KLM検出器グループではその他にアメリカのバージニア工科大学とパシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)が円筒部KLM検出器の建設担当、データ収集システムの構築はハワイ大学、インディアナ大学が担当しています。」

(左)シンチレータにファイバーを接着するためロシアのITEPが製作した装置。
(右上)ファイバーと光子検出器が付けられたシンチレータは15本ずつにまとめて接着され、ポリスチレン(白い部分)で覆われた後、KEKへ輸送される。
(右下)両端部(エンドキャップ部)KLM検出器の内部。15本ずつにされたシンチレータの塊を2層(1層目と2層目はシンチレータの方向が直交するようにする)にし、扇形に組み合わせる。

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