シリーズBelle II【第2回】
Belle II測定器のビームパイプ

2012年11月2日

一般に素粒子の衝突型測定器は、衝突点を中心にタマネギ構造に装置が配置されます。今回のハイライトは、現在高度化の改造が進んでいるSuperKEKBプロジェクトにおけるBelle II測定器の開発で、衝突点に一番近い「ビームパイプ」の改造状況についてお知らせ致します。

ビームパイプはピクセル検出器(画像中央)のさらに内側に設置されます。 ©Rey.Hori

SuperKEKBプロジェクトは、70億電子ボルト(7GeV)のエネルギーの電子と、40億電子ボルト(4GeV)のエネルギーの陽電子のそれぞれのビームをナノメートルのサイズに細く絞って衝突させ、衝突頻度を40倍増強することで、B中間子・反B中間子対生成などの現象を精密に測定します。B中間子は不安定なため、すぐに他の軽い粒子に変化(崩壊)しますが、髪の毛の太さ、数十ミクロンの精度で崩壊した場所を特定することで、標準理論を超える現象の探索が可能となります。

崩壊場所特定の精度向上のためには、電子と陽電子の衝突点により近い場所から粒子の軌跡を測定する必要があります。そのため、Belle II測定器では、衝突点でのビームパイプの半径が従来の1.5cmから1cmに変更することが計画されています。そこで、ビームパイプを含めて衝突点に最も近い測定器の組み上げを担当している、素粒子原子核研究所田中秀治准教授に聞きました。

素粒子原子核研究所准教授の田中秀治氏― ビームパイプの径が細くなる他に、何が変わりますか?

従来から衝突点に近いビームパイプの部分はベリリウムという金属を使っています。ベリリウムは、水素、ヘリウム、リチウムに次ぐ、(周期表の)4番目の元素で銀白色の軽金属です。元素番号が小さいということは、荷電粒子や光子の透過性が良いということにつながり、衝突点でおきた素粒子反応の情報をできるだけそのままビームパイプの外の測定器に伝えることができるのです。ベリリウムはビームパイプの真空度を保つ強度も十分に持っています。

今回のアップグレードにあたり、これまで衝突点のあたり20センチほどが全てベリリウム製のビームパイプであったのに対して、Belle IIでは、衝突点まわりのほんの5センチほどの部分での使用に限りました。扱いの難しいベリリウム部分の設計を簡単にすることで、コストと失敗のリスクを抑えるためです。

 ビームパイプのもうひとつの重要な役割として、加速器を回っている電子や陽電子が出す光など、衝突点から発生したのではない粒子たちが、測定器の中に入ってこないように防ぐことがあります。そのため、できるだけ重たい物質(原子番号大)で、真空容器としても実績のある金属、タンタルを使い、ビームパイプに遮蔽機能も持たせます。タンタルの形状も、余計な粒子の衝突点への侵入をふせぐために、内部を階段状にしています。

しかし、タンタルとベリリウムを直接接合することは技術的に不可能なため、その間にチタン製のビームパイプをはさみこみます。実は、ベリリウムとチタンの接合も難しく、ヒップ加工という高温高圧での界面接合と呼ばれる技術を用います。タービンやジェトエンジンの羽根を作るのと同じ技術です。チタンとベリリウム部分パイプの内部には10ミクロンの金メッキをし、放射光(X線)によるバックグランドを阻止します。

― 設計のポイントは何でしょう。

ビームパイプの模型。この模型をもとにビームパイプの設計や設置精度を詰めていきます。ビームパイプの半径が1cm、またピクセル型検出器はこのパイプに設置されており隙間は、100ミクロンもありません。またこのビームパイプの設置精度自体も、500ミクロン程度を目指さなければいけません。こうした製作を可能とするように、写真のような模型をくみ上げて検証しているところです。また、遮蔽効果をさらに強化しつつ、重たいビームパイプを左右の重心で支えるためにヘビーメタル(タングステン90%、銅10%の合金)マスクも配置します。両端に重い部品がある一方、中央部に細くて軽い(比較的弱い)ベリリウムの部分があるという難しい構造も、この模型を使って検証します。

加速器の構造と深い関連を持ちますので、加速器施設部の衝突点付近の設計担当グループや真空グループの研究者と連携を取って、設計を進めています。そして、加速器からの光については、加速器の磁石の配置情報からシミュレーションをして、タンタルやチタンの形状を定める設計を進めているところです。来年の秋に実機となるビームパイプが製作できるように、治具なども詰めているところです。

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