シリーズBelle II【第1回】
Belle II測定器の新型粒子識別装置、
エアロゲル・リングイメージングチェレンコフカウンター

2012年10月23日

現在KEKでは、KEKB加速器とBelle測定器のアップグレード計画、Super KEKBプロジェクトを推進しています。このアップグレードにより、電子と陽電子のエネルギーは、それぞれ70億電子ボルト(7GeV)と40億電子ボルト(4GeV)に変更され、ビームをナノメートルレベルまで細く絞って衝突させることにより衝突性能を40倍に増強します。これは、アップグレード前のKEKB加速器では、120年かかった素粒子反応のデータを3年で取得できることを意味します。加速器運転の開始は2014年度内を予定しています。

加速器の性能向上に対応し、素粒子反応の測定器もBelle測定器から、Belle II測定器へと変わる予定です。Belle II測定器を準備しているBelle II実験グループは、これまでのBelle実験チームをもとに新たに結成された国際共同実験チームで、世界20の国と地域からの約70の大学・研究機関に所属する約400人の研究者が参加、建設・データ収集および物理解析を共同で行います。

Belle II測定器は、図1に示されるように、素粒子の衝突点を囲むように、ビームパイプから外に向けて、(1)ピクセル型検出器、(2)シリコンバーテックス検出器、(3)中央飛跡検出器、(4)TOPカウンター、(5)電磁カロリメータ、また、端部をふさぐように、(6)エアロゲル・リングイメージングチェレンコフ(略称RICH:リッチ)カウンター、そして一番外を覆う、(7)ミュー粒子・中性K中間子検出器、の7つの装置から成り立っています。

図1 Belle II測定器を構成する装置の配置説明図 ©Rey.Hori

今回のハイライトは、Belle II測定器の前方端部を覆う装置、エアロゲル・リッチカウンターの建設を進めている、素粒子原子核研究所助教の西田昌平氏に聞きました。

素粒子原子核研究所助教の西田昌平氏— エアロゲル・リッチカウンターの役割は何でしょう。

SuperKEKBでも、ボトムクォークを含むB中間子を集中的に生成し、その素粒子反応を測定します。ボトムクォークは、すぐにより軽いストレンジクォークや、アップクォーク、ダウンクォークに変化(崩壊)してしまうので、中にストレンジクォークを持つ電荷を持った荷電K(ケイ)中間子や、アップクォークやダウンクォークからできている電荷を持った荷電パイ中間子などを観測します。例えば、衝突点でもともと生成されたのが、ボトムクォークなのか、反ボトムクォークであったのかを識別するためには、荷電K中間子と荷電パイ中間子をどれだけ間違えないで測定できるかが、大きな鍵となります。大雑把に言って、これまでは荷電K中間子を100個観測した時に、5、6個程度のパイ中間子が間違ってカウントされていたのですが、この間違いを、1個程度に押さえるのが、エアロゲル・リッチカウンターの役割です。」

― エアロゲル・リッチカウンターで、パイ中間子とK中間子を区別する方法を教えてください。

図2 荷電パイ中間子と荷電K中間子の識別の模式図真空中では、光速度は秒速30万キロメートルですが、屈折率のある透明物質中では遅くなります。そのため、透明物質中を通過する荷電粒子の速度は、透明物質中の光速度を超えることが可能で、そのとき、粒子の飛跡に沿って弱い光、「チェレンコフ光」が出ます。エアロゲル・リッチカウンターは、荷電粒子がエアロゲルを通過した際に発生する、チェレンコフ光のリング状のイメージを20cm離れたところに敷き詰めたハイブリッド型アバランシェ光検出器(Hybrid Avalanche Photo-Detector :HAPD)で捕える装置です。エアロゲルは二酸化ケイ素主体の固体が微細な気泡を多量・均一に含んだもので、90~99.8%の空気で構成され、密度は0.1(g/cm3)程度です。ほとんど空気からできているため半透明です。

これまでのBelle測定器でも、エアロゲルの屈折率を適切に選ぶことで、ある運動量に対して荷電パイ中間子のときだけ発光させることが可能で、チェレンコフ光が発光したか、しなかったかの情報を元に荷電パイ中間子と荷電K中間子の区別を行う、エアロゲルチェレンコフカウンターを使っていました。

しかし、エアロゲル・リッチカウンターでは、図2のように、エアロゲルからのチェレンコフ光をリング上に捉え、その形(リングの大きさ)から粒子の識別ができるようにします。捕らえられた光子一つ一つの位置を高感度で検出し、広がり角度を精度良く読み取ることで荷電パイ中間子と荷電K中間子の識別をより精密に行います。

— 間違い率を下げるポイントは何ですか?

図3 ハイブリッド型アバランシェ光検出器(Hybrid Avalanche Photo-Detector :HAPD)間違い率を下げるポイントは2つ。透明度の高いエアロゲルの開発と、リング状にチェレンコフ光をとらえる光検出器の開発です。エアロゲルは、低屈折率の透明な物質ということで、チェレンコフ光を発光する最適な物質です。現在は、光を出しやすくするために密度をあげ、しかも透明度を落とさないエアロゲル製造の開発をしています。そして、リング状のチェレンコフ光を捉える光検出器には、種々の粒子の通過による高い放射線に強く、しかも磁場中で作動するという条件を満たす必要があり、長年KEKで開発されてきたハイブリッド型アバランシェ光検出器(HAPD)を使用します。HAPDは、半導体光検出器技術と光電子増倍管技術,さらに半導体エレクトロニクス技術を融合して開発した新型の光検出器です。

— エアロゲル・リッチカウンターグループの構成と開発の現状を教えてください。

エアロゲル・リッチカウンターグループは、国内からは、KEK、首都大学東京、新潟大学、千葉大学、東邦大学、名古屋大学、東京理科大学(Belle II参加機関ではありませんが、学生が参加)が、また海外からは、スロベニアのヨーゼフ・ステファン研究所を中心とするグループが参加する20名程度のグループです。現在、HAPDの設計は固まり、これから4百数十個の製作が始まるところです。また、透明度をあげたエアロゲルを作成する装置もできあがってきたところです。2014年9月には、すべてのパーツをそろえる予定で進めています。

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