正しい細胞分裂を司るタンパク質

2012年6月27日

私たちの身体はおよそ60兆個の細胞から成り、その一つ一つが常に分裂、増殖を繰り返すことで、身体を構成し、生命活動を維持しています。もしも細胞が分裂できなければ、細胞の寿命と共に、細胞は死滅してしまいます。逆に分裂しすぎて必要以上に細胞が増えれば、ガンなどの疾患につながります。各細胞には2つに分裂するための周期があり、その周期に応じて分裂を調節するしくみが備わっています。

図1 正常な細胞と多核の細胞
緑の蛍光色素で染色している部分が核を示す。ARF6を欠損させた細胞では細胞質分裂が正常に行われなかったため、1細胞に多数の核がある。
画像提供:京都大学 中山和久教授

細胞質分裂を行う役者たち

細胞分裂は、細胞核内に存在する染色体DNAの複製から始まります。DNAが複製され、できあがった二組の染色体は半分ずつに分離します。次いで細胞質の分裂が始まります。分裂途中の細胞は、ひょうたんのような形をしており、中央のくびれ部分が「ぷつん」と切れ両者が細胞膜で閉じると細胞分裂が完了します。その間、分かれつつある二つの細胞の間には、微小管の束が橋をかけるように現れます(図2)。

図2 細胞分裂の様子

京都大学の中山和久教授、およびKEK物構研の若槻壮市教授の研究チームが着目したのは、細胞の「くびれ」から最後の「ぷつん」と分かれるまでの過程です。このときに現れる微小管は、細胞内で物質を輸送する「線路」のような役割を果たす構造です。線路の上を走るのは「モータータンパク質」と呼ばれる動くタンパク質です。モータータンパク質は、細胞の特定の場所で必要になる物質を、小胞と呼ばれる小包状の膜に包み込んで運ぶ運び屋タンパク質です。まるで、貨物列車が線路を走るように、微小管に沿って動いていきます。

中山教授らのグループは、くびれている部分の微小管の束にARF6というタンパク質が集まっていることに気がつきました。そして、このタンパク質の機能を欠損させた細胞は細胞質分裂がうまくいかず、1つの細胞内に複数の核をもつ細胞の割合が多くなっていました(図1)。同時に、モータータンパク質の一種MKLP1(Mitotic Kinesin - Like Protein 1、モータータンパク質の一種である「キネシン」に似たタンパク質)もくびれ部分に集まっていることもわかりました。これらのことから、この2つのタンパク質は細胞質分裂、つまり「くびれ」から「ぷつん」の間に重要な役割を担っていることが予想されました。これを立証するため、ARF6とMKLP1が結合することを示し、その詳しい構造を調べることにしました。

「細胞膜」と「微小管」をつなぐ構造

図3 結晶構造解析を行った牧尾氏(KEK物構研 構造生物学研究センター)。KEK物構研 構造生物学研究センターの牧尾尚能(まきお ひさよし)さんらは、ARF6とMKLP1の複合体の結晶を作り、フォトンファクトリーのビームラインBL-5AおよびAR-NW12Aにて、結晶構造解析を行いました。2つのタンパク質の結合部分を詳細に調べ、結合に最も重要な部分をつきとめました。その部分を別のアミノ酸に置き換えた変異体を作ると、ARF6がくびれ部分に集まることができず、正しい細胞質分裂ができなくなりました。このことは、ARF6とMKLP1の複合体の機能が、正しい細胞質分裂の進行にとって不可欠であることを示しています。

図4 微小管と細胞膜を橋渡しするARF6とMKLP1複合体のX線結晶構造
フォトンファクトリーを利用して得られた立体構造。細胞内ではARF6(黄・桃)とMKLP1(橙・緑)は2つずつで1ユニットを形成する2量体として存在している。 右側の赤枠内は、この二量体を矢印の方向からみた電荷の様子。赤が負電荷、青が正電荷を示す。
得られた複合体の構造から、ARF6とMKLP1の複合体は、微小管の「線路」とくびれ部分の細胞膜の間の「橋渡し」の役目を果たしていることが予想されました(図4)。この橋渡し構造は、細胞質分裂に必要なタンパク質、そしてそれを包んだ小胞が「ぷつん」と切れる中央部分に集められるための足場になると考えられます。複合体を形成したとき、細胞膜と結合していると考えられる表面に正電荷が現れることも、負に荷電した細胞膜との結合しやすさを裏付けるものとなります。

研究グループは、今後、この足場を使って「ぷつん」の中央部分に集積するタンパク質をつきとめ、それらの構造や機能を明らかにしていこうとしています。そして最終的には、細胞質分裂の全貌を明らかにすることを目指しています。

細胞分裂のプロセス(動画)

関連サイト

放射光科学研究施設 フォトンファクトリー
構造生物学研究センター
物質構造科学研究所
京都大学大学院薬学研究科 生体情報制御学分野
ターゲットタンパク研究プログラム 小胞輸送を制御するタンパク質複合体の構造機能解析

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