3泊4日の科学体験 サイエンスキャンプDX

2012年4月12日

319()から22()にかけて、独立行政法人 科学技術振興機構が主催するスプリングサイエンスキャンプDXがKEKつくばキャンパスで開催され、全国から20名の高校生が集まりました。サイエンスキャンプは、研究開発の現場で活躍する研究者・技術者による指導を行う科学技術体験合宿プログラムです。今年度から新設された「DX」はdeepen & extendの意味で、通常のサイエンスキャンプよりも1日長い3泊4日で、より深く学ぶことができるようになっています。

開校式の様子。一人あたり1分の持ち時間で自己紹介が行われた。キャンプ初日の開校式では、これから4日間「教室」となる4号館セミナーホールに、講師陣も含めて全員が一同に会しました。生徒たちの自己紹介では、宇宙に興味がある、物理が大好き...と言ったサイエンスキャンプならではの話の他に、部活や趣味の話、友達を作りたいなど、高校生らしい話も。その後、全員で霧箱を作って放射線を観察する実習からプログラムがスタートしました。

午後からは、このサイエンスキャンプのメインである、コース別実習が始まりました。生徒たちは素粒子コース、回折コース、加速器コース、放射線コースの4コースに5名ずつ分かれ、KEKの研究者が指導します。

配られた実習のテキストを見て、不安そうな表情の生徒たち。そんな高校生たちの様子を見て、「高校1年生だと、まだ波は習ってないよね?」と声をかける人がいました。アドバイザーの水上慶文先生(神奈川県厚木高校)です。サイエンスキャンプには、アドバイザーとして高校の先生が2名参加しています。講師を務めるKEKの研究者は研究のプロであっても必ずしも生徒たちにわかりやすく説明することに長けているわけではありません。そこをうまく補ってくれるのがアドバイザーです。水上先生のノートパソコンには、波の重ね合わせや回折などをわかりやすく表した動画の教材がたくさん入っていて、物理をまだ習っていない高校1年生も、波の基本的な性質を理解することができました。

KEKB加速器の見学。2日目の午前中はKEKの研究者による講義「宇宙を捕まえる」と、KEK内の施設見学が行われました。熱心な生徒たちからは質問が続出。見学内容も盛りだくさんで、Belle検出器やフォトンファクトリーなどすべての見学を終えた頃には、予定の時間を大幅に超えるほどでした。

午後からコース別の本格的な実習が始まりました。素粒子コースは、ひとり1つずつ自作のワイヤーチェンバーを作り、素粒子を目で見る実験を行いました。これはBelle測定器に使われているものと同じ原理を使った検出器で、生徒たちはそれを自分の手で作ることができたということに驚きと喜びを感じていたようです。ワイヤーの太さや電圧を変えることによる信号の大きさの変化や、X線と荷電粒子の違いなどを実験を通して体験した後、宇宙からやってくる宇宙線の計測も行いました。

回折コースでは、回折格子フィルムにレーザーを当て、回折光の間隔を測ることにより、実際の格子の間隔を求める実習を行いました。回折光の間隔から計算した格子間隔と、実際に顕微鏡を覗いて1ミリあたり何本...と数えて計測した間隔がほぼ一致したことにびっくりした、と感想を述べた生徒もいました。実習の途中にはフォトンファクトリーに足を運び、シリコン結晶のラウエ写真を撮る様子を見学しました。生徒たちは、実際の研究でも波長の短いX線を使って、今回の実習と同じ原理によって顕微鏡でも見えない小さなものを見ているのだということを実感していました。

ワイヤーチェンバーの製作(素粒子コース)

回折像の計測(回析コース)

加速器のビームの見張り番であるビームモニターでは、モニターからの信号を計器に早く正確に伝える必要があります。加速器コースはこの問題に取り組みました。生徒たちは信号を発生させる「パルサー」という電子回路を自作し、その信号がケーブルの中を伝わる速さや、ケーブル内で信号が変化する様子を、オシロスコープを使って調べました。何種類ものケーブルで実験した結果、信号の伝わる正確さにずいぶん違いがあることを発見しました。

放射線コースが取り組んだのは、さまざまな物質のガンマ線の遮へい率の測定です。生徒たちは、アルミニウムや鉛などの金属の他、原発事故の影響で放射線量が高くなっている地域で実際に活用できるように、せっけんやトタンなど、身近にある物の測定も行いました。このコースでは、空気による遮へい効果を測定するために、ヘリウム入りの風船に線量計を取り付けて空に飛ばしましたが、風船が木に引っかかり線量計が回収できませんでした。このように実験が失敗したり、またその失敗の原因をみんなで考えるのもサイエンスキャンプのおもしろさのひとつです。

ケーブルを伝わる信号の計測(加速器コース)

せっけんの遮へい効果を測定中(放射線コース)

サイエンスキャンプのプログラムには、最終日にコース別の成果発表会が組み込まれています。
発表前日は夕方から資料の準備と発表練習を行いましたが、夜遅くまで残って作業をしている生徒も多く見られ、グループで協力して実験の結果を他人にわかるように説明する。これがいかに大変なことか、身を持って体験することとなりました。

しかしこの苦しい体験は、生徒たちの糧になったようです。放射線コースに参加した生徒の一人は、発表の準備のためにグループの人や講師、アドバイザーの先生と夜遅くまで討論したことについて「一つの物事についてここまで考えるのがこれほどまでに楽しいと感じたのは人生で初めてでした」と感想を述べていました。

成果発表会の様子。成果発表会では、各コースとも実習の成果がしっかりとまとめられており、素晴らしい発表をすることができました。

発表会終了後には、"研究者になるにはどうしたら良いか"について、KEKの若手研究者の講義があり、続いて平山英夫理事(当時)より一人一人に、「未来の博士号」が手渡されました。この「未来の博士号」はサイエンスキャンプ修了証のKEKオリジナル版で鈴木厚人機構長により考案されたものです。

参加した多くの生徒が、キャンプで体験した実習や見学、講義だけではなく、科学好きな仲間と地域や学年の垣根を越えて話し合えたことが貴重な体験だったと話していました。数年後、もしかしたらこのキャンプの参加者から研究者としてKEKに戻ってくる人が出てくるかもしれません。

平成24年度は、12月にウィンターサイエンスキャンプDXとして開催する予定です。