新粒子発見!‐ 重たいエキゾチックハドロン ‐

2012年2月9日

1月10日(金)、世界最高性能を持つKEKの加速器「KEKB」を用いて実験を行ってきたBelle国際共同実験グループがプレスリリースを行いました。これは、新種の重たい「エキゾチックハドロン」を発見したというものです。

私たちの身の回りにある物質を形づくる原子。この原子を構成する原子核は陽子や中性子などが結びついてできています。この陽子や中性子はさらに、それ以上分けられない存在である素粒子、「クォーク」からできています。

image_01.jpg図1 通常の中間子はクォークと反クォークの対、陽子や中性子などはクォーク3個が強い力で結合している。例えば、陽子や中性子はクォーク3個の組み合わせでできています。また、日本で最初にノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士が予言したことでも知られる「π(パイ)中間子」をはじめとする中間子は、1個のクォークと1個の反クォーク(図1)が組みあわせでできていることが知られています。こうした2個や3個のクォークが組み合わさってできた粒子のことを「ハドロン」と呼びます。これまでに数百種類におよぶハドロンが発見されて来ました。

2003年、Belle実験グループが「奇妙」な粒子を発見しました。これまで発見されたハドロンは、2個または3個のクォークの組み合わせでしたが、この新しい粒子はクォーク4つが組み合わさってできていると考えられるものだったのです。そこでこの新粒子は奇妙なハドロン「エキゾチックハドロン」と名付けられました。2003年を皮切りに、Belle実験では10種類を超えるエキゾチックハドロンが次々と発見されてきました。

これらのエキゾチックハドロンは、4個のクォークのうち2個が第2世代(図2)に属する重いクォークである「チャームクォーク」と「反チャームクォーク」から構成される粒子ですが、特に2007年、2008年に相次いで見つかった新粒子により、エキゾチックハドロンの存在が確固たるものになりました。これらの新粒子は陽子の約4倍から4.5倍の質量を持ちます。さらに、2008年には4個のクォークのうち2個が第3世代に属するさらに重い粒子「ボトムクォーク」と「反ボトムクォーク」だと考えられるエキゾチックハドロンの存在も示唆されました。

image_02.jpg図2 クォークは最も基本的な粒子で、6種類が存在する。これらは、弱い力を通じて行き来がしやすいクォークがペアになっており第1世代、第2世代、第3世代という3つの世代に分類されている。そして、世代が上がるにつれて質量は大きくなっていく。それぞれの粒子は[アップ,ダウン]、[チャーム,ストレンジ]、[トップ,ボトム]と名付けられている。このうち、アップ、チャーム、トップは電荷+2/3を、ダウン、ストレンジ、ボトムは電荷-1/3を持つ。また、各クォークには反対符号の電荷を持つ反粒子(反クォーク)が存在する。

そして今回「ボトムクォーク」と「反ボトムクォーク」を含むエキゾチックハドロンの決定的な証拠が得られました(図3)。発見された粒子はZb(ゼットビー)と名付けられたZb(10610)とZb(10650)の2つの新粒子です。これらの粒子の名前の由来は粒子の持つそれぞれの質量。それぞれ10610MeV(メガ電子ボルト=百万電子ボルト)と10650MeVの質量を持っています。これは、陽子の質量の約11倍に相当するもので、非常に重いエキゾチックハドロンです。

image_03.jpg図3 従来のハドロンと、エキゾチックハドロン。Belle実験では、チャームクォークを含んだエキゾチックハドロンの発見が相次いでいた。今回の見つかったZb粒子はボトムクォークを含む粒子で電荷を持っているのが特徴である。
※ハドロンのうち、クォークと反クォークから出来ている中間子のことをメソンと呼び、3つのクォークからできる粒子のことをバリオンと呼ぶ。

実験では、Belle実験で得られたデータのうち「ボトモニウム(図4)」というボトムクォークと反ボトムクォークの2つが組み合わさった中間子を含む事象に注目して詳細な解析を行いました。いずれのZb粒子もボトモニウムと電荷を持ったπ中間子に崩壊します(図5)。もしもZb粒子がボトムクォークと反ボトムクォークの2個のクォークで出来ているボトモニウム中間子であるとすれば、ボトムクォークの持つ電荷が-1/3と反ボトムクォークの電荷+1/3が打ち消しあい、全体としては電荷のない粒子となるはずです。しかし、Zb粒子は電荷を持っています。つまり、Zb粒子はボトムクォークと反ボトムクォークの2つに加えて、さらに2つのクォークが組み合わさっていると考えられるのです。

image_04.jpg図4 ボトムクォークと反ボトムクォークが結合したものを特に「ボトモニウム中間子」と呼び、Υ(ウプシロン)、χb(カイビー)、hb(エイチビー)と表記される粒子が知られている。一方、チャームクォークと反チャームクォークが結合したものは「チャーモニウム」と呼ばれ、J/ψ(ジェイ/プサイ)、χc(カイシー)、hc(エイチシー)と表記される粒子が知られている。

image_05.jpg図5 電子・陽電子衝突によってZb粒子ができた様子。Zb粒子は生成後すぐにボトモニウム(Υやhb粒子)と1個の荷電π中間子に壊れた。ボトモニウムはミュー粒子対(つい)に崩壊し、検出器で測定される。

自然界には、電磁気力、弱い力、強い力、重力の4つの力が存在しています。その中の「強い力」はクォークを結びつけ、ハドロンを形づくっています。しかし、強い力がどのように働き、ハドロンを作り出しされているのかは謎に包まれています。また、それぞれのクォークの質量はわかっていますが、ハドロンを構成するクォークの質量の合計と、ハドロンの質量は釣り合いません。なぜ釣り合っていないのか、その理由もわかっていません。さらに、クォーク4個で成り立つエキゾチックハドロンが相次いで見つかっていることからも、5個や6個など、もっと多くのクォークからできたエキゾチックハドロンが存在する可能性もあります。エキゾチックハドロンの発見は、新たな研究領域の広がりを見せます。

Belle実験は2010年6月のKEKB加速器の運転終了にあわせデータの取得を終了しました。しかし、現在もデータの解析が続けられています。また、2014年度には、KEKBの性能を40倍に高めたSuperKEKB(スーパーケックビー)の本格稼働が予定されています。これに合わせて2015年にBelle Ⅱ(ベルツー)実験がデータの取得を開始する予定です。従来のBelle実験のデータに加え、Belle Ⅱ実験で得られる膨大なデータを解析することで、今後より多くの新粒子の発見とエキゾチックハドロンの詳しい性質が明らかにされることが期待されています。

関連サイト

Belle実験 日本語(一般向けサイト)
KEKB
Belle II 実験 日本語(一般向けサイト)
SuperKEKB

関連記事

2012.1.10 プレスリリース
新種の重たい「エキゾチックハドロン」を発見
2009.8.22 プレスリリース
Belle実験の最新成果について
2008.8.5 プレスリリース
Belle実験の最新の結果について
2007.11.9 プレスリリース
Belle実験で新種の中間子を発見
2003.11.14 プレスリリース
Belleが新粒子発見