QUIET実験で拓く宇宙誕生の謎

2011年8月25日

8月24日(水)、QUIET実験(※)の観測精度に関するプレスリリースが発表されました。QUIET実験がデータ取得を開始した2008年10月より8ヶ月間の観測データを解析した結果、QUIET実験で用いられている検出器が世界トップレベルの検出感度を誇ることが分かりました。

QUIET実験は高度5000mを越える南米チリのアタカマ高地において宇宙マイクロ波背景放射(CMB)(※)を精密に測定することにより、宇宙誕生の謎を明らかにするため行われている実験です。

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図1:ビッグバン後の宇宙の様子

宇宙初期はビッグバン(図1)と呼ばれる、超高温・超高密度の火の玉状態であったと考えられています。そのビッグバンを引き起こした原因と考えられているのがインフレーション(宇宙誕生直後の急激な大膨張)です。インフレーションが起こったとすると、「地平線問題(※)」や「平坦性問題(※)」をはじめとした未解決の宇宙の謎について上手く説明できることから、宇宙誕生直後にインフレーションが起こったとする説が有力と考えられています。

しかしながら、インフレーションが起こったという直接の証拠はまだ見つかっていません。そこで重要になってくるのが宇宙マイクロ波背景放射のBモードを調べることです。Bモードとは、宇宙マイクロ波背景放射にあらわれる渦状の偏光パターンです。インフレーションが起きた際、宇宙空間が振動することで生じた波、原始重力波が生まれたと考えられています。この原始重力波による時空の歪みがBモードを生み出します。つまり、Bモードの検出に成功すれば、インフレーションの直接証拠を捕えたことになります。これにより、「宇宙はどのようにしてはじまったか」ということを観測結果にもとづいて研究することができます。

QUIET実験では、QUIET望遠鏡(図2)を用いて観測を行っています。QUIET望遠鏡には2枚の集光ミラーとレシーバーの中に納められた偏光検出器があります。宇宙マイクロ波背景放射は2枚の集光ミラーによりレシーバーに向けて集められ、偏光検出器に送られます。偏光検出器は波の干渉の性質を利用して偏光強度を測定します。望遠鏡で南天の空を深く観測することにより、「偏光地図」(偏光強度の空間分布図)を精密測定します。

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図2:QUIET望遠鏡

実は、偏光地図のほとんどはEモードと呼ばれる渦のないパターンで占められています。Eモードは2000年に発見された偏光で、宇宙の密度揺らぎ(宇宙の現在の構造を形作る要因と考えられている)を反映したものです。Bモードの強度は、おおまかにEモードの百分の一程度と考えられています。QUIET実験は偏光地図(図3)を精密に測定することにより、Eモードに埋もれたBモードを探し出します。

今回のプレスリリースは、19個の43GHz帯(図4)の検出器を用いて7ヶ月半観測を行った結果です。まだBモードは発見されていませんが、2つの重要なことが分かりました。

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図3:QUIETで調べた偏光地図

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図4:43GHz帯の偏光検出器

1つ目は、QUIET実験で用いられている偏光検出器が世界トップレベルの検出感度を誇ることです。現在、検出感度の世界一位は、2006年から南極でBモードの探索を行っているBICEP実験です。今回の結果から、QUIET実験はBICEP実験の検出器の感度とほぼ互角であることが分かりました。QUIET実験では、さらに検出器を増強(90個の95GHz帯検出器)した観測を1年半行っています。全観測データをつかった解析により、世界第一位の探索感度を達成することが期待されています。

2つ目は、世界最良の系統誤差の達成です。微弱なパターンであるBモードを捕えるには、検出器ごとのばらつきが小さく、安定にコントロールされている事が不可欠です。系統誤差はその重要な指標となります。

今回の発表は、「インフレーションという宇宙誕生の謎を、実験的に研究する」ことが実現可能であると、実験データにもとづいて示したことになります。

QUIET実験グループは、Bモード探索感度を約50倍向上する実験「QUIET II実験」を計画しています。今後Bモードの発見により、宇宙誕生の謎が明らかにされる日もそう遠くはないかもしれません。


<補足説明>

※QUIET実験(Q/U Imaging ExperimenTの略)
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)に残されたBモードの検出により、インフレーションが起きた証拠を捉えることを最大の目的とする。現在、世界7ヶ国(日、米、英、独、オランダ、ノルウェー、チリ)21研究機関の約50名の研究者により組織されている。メンバーのうち、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の職員は6名含まれ中心的な役割を担っている。

※宇宙マイクロ波背景放射(CMB)
宇宙のあらゆる方向から一様に降り注ぐ電磁波のこと。1964年に米国ベル研究所のペンジアスとウィルソンによって偶然発見された。ビッグバンから38万年後、宇宙が冷えるに従い原子が真っ直ぐに進むようになった状態(宇宙の晴れ上がり)の時に生じた宇宙最古の光であり、ビッグバンが起きたという有力な証拠である。

※地平線問題
ビッグバン宇宙論では、互いに信号をやりとりできた最大の範囲(地平線)を超えて、宇宙のあらゆる方向でCMBが一様に見えてしまう。これを地平線問題とよぶ。あらかじめ信号のやり取りをしたあとにインフレーションの急激膨張があったとすれば、この問題を解決できる。

※平坦性問題
現在の宇宙が存在するためには、宇宙の湾曲している具合(曲率)が0に近く平坦である必要があり、このような曲率0に近い状態で宇宙が保たれているためには、何らかの理由が存在する必要があるという問題。インフレーションによって宇宙が急激な膨張をすることで当初の曲率の値がいくつであったとしても結果的には0に近くなると考えられ、この問題も説明できるとされる。