放射線を測る

2011年8月11日

3月11日の東日本大震災から5ヶ月が経ちました。津波によって起きた福島第一原子力発電所の事故に対応するために、KEKの放射線測定の専門家も様々な形で自治体などと協力して放射線の計測を行ってきました。

KEKでは加速器を使った様々な実験を行っています。加速器の運転中は放射線を発生するので、人が近づかないための安全設備を設けたり、放射線を遮蔽するためのコンクリートや鉛の壁を設置したり、周辺の環境放射線量を24時間監視するなどの様々な安全対策を施しています。これらの業務を中心的に担っているのが、KEKの放射線科学センターです。

3月11日の地震発生にともないKEK敷地内の受電設備が被災し、停電しました。復電後に施設内の安全を確認しながら環境放射線のモニター装置を復旧させたのは3日後の3月14日でした。翌15日未明には放射線量の急激な上昇が観測され、放射線科学センターの職員が緊急召集されました。

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図1 KEK敷地内のNaI計数管で測定されたガンマ線の線量率(3月14日14時〜20日12時)

放射線科学センター長の伴秀一氏はその時を振り返って「ガンマ線のスペクトルを測ることのできる装置で放射性物質の種類を調べると、原子炉から飛来したヨウ素131のガンマ線をはっきりと見ることができました。環境では見るはずがないスペクトルだったので、とても緊張しました」と語っています。

KEKは直ちに茨城県やつくば市などと連絡を取り、放射線量の推移やモニタリングなどについての情報共有と災害対策のための協力体制を作りました。またwebサーバーを準備し、KEKで測定した環境放射線量のインターネット上でのリアルタイム公開も開始しました。

また、同じつくば市内で空気のモニタリングを行っている(独)国立環境研究所の研究者と協力し、空気中の放射性物質の種類と量の測定と、その結果の公開も始めました。国立環境研究所には毎分600リットルの速度で空気を吸引し、石英繊維と活性炭の二種類のろ紙で空気中の浮遊物を採取する「ハイボリュウムエアサンプラー」という装置があります。この装置で空気をろ過した試料をKEKの高分解能ゲルマニウム検出器で測定すると、空気中を漂っている放射性物質の種類と量を調べることができます。

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図2 国立環境研究所のハイボリュウムエアサンプラー
提供:国立環境研究所

KEKでは3月15日から6月19日までの測定結果を公表しています。それ以降は放射性物質の量が減少しているため、空気吸引の時間を長くするなどの工夫をして測定を続けています。

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図3 つくば市内の国立環境研究所で吸引濾過された空気中の放射性物質の種類と量をKEKの高分解能ゲルマニウム検出器で分析した。(縦軸の単位はBq/cm3)事故から3ヶ月で空気中の放射性物質の濃度は100万分の1以下に減少した。

KEKではつくば市の災害対策本部に職員が参加し、市内の幼稚園や小中高校の校庭の放射線量測定に参加するなど、自治体からの要請にも応じています。

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図4 つくば市の要請を受け、市内の幼稚園小中高校の校庭の放射線量を測定する市の職員とKEK職員

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図5 放射性物質調査のため霞ヶ浦の湖水を採取する様子

また福島県や文部科学省などからの要請を受け、3月15日から数回にわたって、福島県内の様々な場所の放射線量測定に協力しました。厚生労働省水道課の依頼で、水道水の測定も行いました。

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図6 福島県内で採取した土壌サンプル

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図7 土壌サンプル採取の様子

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図8 事故直後に福島県内に飛散した放射能の成分を測定するKEKと理化学研究所の職員

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図9 福島県内の高速道路上の3月15日の線量率測定結果

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図10 茨城県東海村のJ-PARCセンター敷地内では、福島第一原子力発電所の方向から風に乗って飛来した放射性物質が松の木に捕獲された後に地面に落下・沈着し、風上側の地面の線量率が周囲より高くなる現象が観測された。

伴センター長は「目に見えない放射線を計測して防護するという私たちの知識や経験、装備などが、こんな形で用いられるようになるとは思っていませんでした。他機関の研究者などとの交流や知識を活かしつつ、今後も出来る限り自治体などの要請に応えていきたいと考えています」と述べています。